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ソンムの戦い百周年「彼らは英雄ではなく犠牲者」 [ニューファンドランド]

 7月1日はカナダ連邦が発祥した建国記念日「カナダ・デー」だが、ニューファンドランドの住人にとっては「メモリアル・デー」である。この日は、今からちょうど100年前の1916年7月1日、「20世紀最大の愚行」と言われるソンムの戦いが始まった日である。
 ニューファンドランド&ラブラドルは当時、カナダ連邦には属してなく、大英帝国の自治領だった。第一次大戦が始まるとニューファンドランド自治領政府は、ニューファンドランド連隊を結成し戦地に送るため、19歳以上35歳以下の男性に志願するよう訴えた。
 すると学生・店員・労働者・教員・漁師などがおおぜい志願してきた。彼らの多くは、戦争は数か月で終わると思っていた。北米で最も貧しい地域を抜け出せればよかったと思うものもいた。中には、入隊するため年齢をごまかした者もいた。戦死したウィリアム・モーガン上等兵は、16歳だった。

 連合軍は、ソンムでの攻撃開始を7月1日と決めた。そして6月25日から砲撃を6日間、昼夜を問わず行った。173万発もの砲弾を撃ち込んだ司令官ダグラス・ヘイグは、ドイツ軍は壊滅したものと信じ、7月1日歩兵隊に突撃を命じた。
 だが兵士全員で作ったイギリス軍の塹壕と異なり、ドイツ軍の塹壕は専門の工兵によって作られ、予想以上に頑丈だった。イギリス軍の突撃を知るや、ドイツ軍兵士は塹壕から姿を現し、機関銃を連射した。イギリス軍兵士たちは、ことごとく鉄条網の前でなぎ倒された。
 ニューファンドランド連隊801名は、ボーモン=アメルの第3波を担当した。彼らは、先に突撃した第1波・第2波の兵士たちが次々と機関銃の餌食になったのを目撃したことだろう。それでも彼らは9時15分ころ、突撃を命じられた。そしてわずか30分で、壊滅した。死者233名、負傷者386名、行方不明者100名以上、連隊の実に4分の1以上が戦死したことになる。翌朝点呼に応じたのは、わずか68名だった。
 第4軍司令官ローリンソンは異常を察知し、攻撃中止をヘイグに具申した。だが司令部のヘイグは15キロ以上後方にあり、前線で何が起きたか全く把握できず、戦闘に犠牲は付きものだとして攻撃を続行した。そのため、一方的な殺戮が一日中続いた。その日ヘイグは本国に報告している。

「今朝の攻撃は大成功である。すべては計画どおり時計の正確さで進められた。ドイツ兵はいたるところで上官の指示に従わず降伏している。敵は兵員が欠乏し他の戦線から部隊をかきあつめている。わが軍の士気は高く、確信に満ちている。」

 実際はこの日、イギリス軍だけで死者1万9240人、負傷者5万7470人、行方不明者2152人を出し、あらゆる戦争の歴史における1日の攻撃側損害の世界記録を樹立した。ソンムの戦いはその後5か月続き、イギリス軍42万・フランス軍19万5千、ドイツ軍は42万という空前絶後の戦死者を出し、連合国軍は歩兵の90%を失った。日露戦争の旅順攻防戦で、機関銃の前に歩兵の正面突撃は無意味であることが実証されていたにもかかわらず、その教訓は生かされなかった。なお旅順攻防戦では要塞を陥落させ旅順艦隊を全滅させたのに対し、ソンムの連合国軍はわずか11キロ前進しただけであった。

 だがソンムの悲劇は、勇気と栄光の美名の下に隠された。国王ジョージ5世はニューファンドランド連隊の健闘を讃え、連隊に「ロイヤル」の肩書きをつける勅許を与えた。現在もカナダ軍の中に、「ロイヤル・ニューファンドランド連隊」はそのままの名称で存在している。
 新聞はソンムの戦いを「連合軍大戦果」と書き立て、被害を矮小化した。ニューファンドランドではかえって、より多くの志願兵が必要だと宣伝された。
 ボーモン=アメルの犠牲もまた、「自由と独立のための戦い」として美化され、小説や歌の題材となった。カナダの退役将校も最近、「ボーモン=アメルで戦死した兵士たちが現在の独立を守った」と語った。
 ニューファンドランドは、小さな島から死者1500人・負傷者2300人を出し、若者の4分の1を失った。それは小さな島の経済に重大な影響を与えた。自治領政府は終戦までに、1500万ドルもの戦債を発売したが、それは政府歳出の4分の1に該当した。世界恐慌のさなか、軍人恩給も支払わねばならず、政府の負債は1932年には1億ドルに達した。政府は恩給を減額しようとしたが、首都セントジョンで暴動が発生し、政府庁舎が暴徒に占拠され、首相が脱出する騒ぎとなった。ニューファンドランド自治領は破産寸前に陥り、1934年ついに責任政府を返上しイギリス直轄植民地に復した。そして1949年には、カナダ連邦に併合された。つまりニューファンドランドは、兵士たちが血で贖った独立を放棄したのである。
 アンソニー・ジャーメインは語る。「彼らは英雄ではない。犠牲者だ。我々が彼らに負っている負債とは、歴史に正直に向き合うことだ。」
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